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2005年9月30日 (金)

拉致問題へのスタンス、私の場合

アンデスの声 さん 投稿日: 9月28日(水)

【トントンがある国の人間として】

「こいつらね、トントンが無いのよ、トントンが」と私に語ったのは技術指導派遣中の日本人技師。「書類をガサガサと束ねて適当にバッチンとホッチキスで留めてくるんよ。日本人なら留める前に誰でもやるじゃろ、束ねた紙の縁をトントンと机の上でそろえる、あのトントンが無いのよ。品質じゃの技術じゃの学ぶ前にね、そういう精神的基本から教えんといけんのよ。」 熱帯風土病のはびこるアフリカ内部の世界最貧国へ還暦を過ぎて単身で乗り込んだ彼は、博識で優れた技術者ながら決して気取らず現地社会に溶け込み、その誠実な人柄は現地の人々から“マンジュウ・ボボ”(バンバラ語で「マンジュウ族の酋長(ボボ)」の意)と慕われ、九州出身の彼はことさらこの呼称を気に入っていた。

日本のある高僧が「脱いだスリッパがずれていると、気になってきちんと揃えたくなる、それも禅の心」と語った。これは禅に限らぬ日本人の心、「もったいない」もその一つ。折りたたんで重ねた布団の縁をきちんと揃える、庭に箒の目が立っていると気持ちがいい、物事の道理を通さないと気が済まない。日本の異常に高度な品質管理・製造技術は、この「気がすまない」精神に負うところが大きい。国土が小さく資源もない日本が複雑高度な文明社会を維持できている所以でもある。これは趣味の問題ではない、日本人が日本人であることをcriticalに規定している精神的要素だ。

そういう日本人にとって、北朝鮮拉致事件とは、食卓の上に便所のスリッパが放り置かれたようなもの、たまらなく「気がすまない」のに、正す方法を理不尽に塞がれている、このままだといずれ我々は便所のスリッパの横で平気で飯を食うようになるのだろうか、そうして社会は壊れていく。道理を忘れた日本人は、なぜか簡単に、だらしなく、意地汚く、傲慢・凶暴に堕す傾向が目に付くだけに、そう思う。

以前この板で『拉致事件について私の根っこにある感情の一つは、自分と家族が生きる場である社会が壊れていくことへの危機感である』と私は述べた。拉致事件をウヤムヤにすることがどう危機なのか、上のように考えた。もちろん動機はこれだけではない、生身の人間としてのごく当たり前の普遍的な感情、被害者への情と加害者へのストレートな怒りと憎しみもあるが、動機は人それぞれだし一人の中には複数の動機があって良かろう。

拉致問題は根が広く深い、金正日をピンポイント処刑して終わりでもない、直情径行型の運動では簡単に解決すまい、腐りかけた根っこから社会を蘇生させる必要がある、それを叶える簡単で巧い方法は私には分からないが、クソの付いたスリッパが置かれている食卓で私は飯は食わない、飢えても箸はとらぬ。決して派手な動きでは無くとも、これは我々の命がけの運動なのである。


【民族・国家の差異とつきあい】

日本のある国立大学の留学生会館では留学生の生活費援助のためにアルバイトを紹介している。「人数が足りないから」と請われてその留学生たちに混じってアルバイトに参加した日本人学生の体験談。

その日の仕事は、あるイベント会場のテントを立てる作業。留学生の多くは国費留学で国籍は中国、韓国、台湾、タイ、インド、スリランカ、イラン、・・・。ふだんはみな真面目な学生達であるが、こういう「誰がやっても給料が同じ」仕事になると態度に差が出る。自分から仕事を買ってでる者、指示通りに黙々と身体を動かす者、作業が終わると次の指示まで雑談に興じる者、常にダラダラとしている者など。日本人の彼の見立てでは、仕事の真面目さの順序は次のようになった。

 1.韓国
 2.台湾
 3.中国
 4.タイ
~~~~~
 5.インド
 6.スリランカ
 7.トルコ
 8.イラン

ほぼ地理的な位置にしたがって東から西へと並んでしまった。それは等間隔で並んでいるのではなく、1~4の真面目なグループ、5~8の手抜きグループとの間に大きな断層があり、断層を挟んだ同じ側のグループ内部では大差なく似たようなものだったという。民族差別を信条として嫌うやや左巻きの彼は、目の前に自ずと浮き上がったその明確な差異に自分で驚いたそうだ。中東も極東も呼称は“アジア”だが、東経90°あたりに一つの境界がある、これは私自身の体験からも納得できる。

民族の気質の差は個人差・個性の延長だ。その差異に目を伏せず、差異を差別に短絡させるのでもなく、付き合うための事実として違いを認識し、相手の嫌いな点ははっきり嫌いだと伝えること。それに相手がどう反応するかは相手の判断、そこからさらに次の段階に進む。相手を知り、違いを認め、言うべき事を言い、やるべき事をやるのが正常な付き合いだ、相手が主権を持った利害相克する国家の場合はなおさら。この当たり前のことを怠たるから北朝鮮との関係はさらにイビツになる、すなわち北朝鮮との正常な関係とは、北朝鮮の犯罪に抗議し共犯者を封じ相応の具体的制裁を即刻科すこと、本当の対話はそこから始まる。

ところで、仕事が終わって親方が日本人の彼に言ったそうだ、「やっぱり日本人が一番ええ、兄さん、あんたこの次も来てもらえんかの。」
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