チェコのハヴェル元大統領 Time to Act on N. Korea と題した北朝鮮の人権問題についての論説
チェコのハヴェル元大統領の Time to Act on N. Korea と題した北朝鮮の人権問題についての論説の訳を掲載します。
ハヴェル氏が極東から遠く隔たった地にありながら北朝鮮の人権問題に深い造詣と関心と怒りをもっていることに驚かされます(ハヴェルがブッシュに成り代わって書いているかのようです)。
論説には「拉致」の言葉こそ出てきませんが、北朝鮮と周辺国の何を問題視し北朝鮮にどう対処すべきかについてのハヴェル氏の考えは、我々の考えと同じです。
また、二年以上前の論説でありながら、今のこの時機にぴったりの内容です。もっともそれは、二年たっても事態が好転していないからなので、 憂うべきことなのですが。
参照: ハヴェル大統領の北朝鮮人権問題についての論説
今こそ北朝鮮に対して行動を起こせ
ヴァーチュラフ・ハヴェル(元チェコ共和国大統領)
ワシントンポスト2004年6月18日
ルドルフ・ヴルバとアルフレッド・ウェツラーのアウシュビッツ収容所からの脱出のことを世界が知ってから60年になります。
ヒトラーのユダヤ人抹殺のための収容所の存在を明るみに出した脱出です。
彼らの証言により民主主義世界の代表的国々は、戦後になっても、信じたくないような事実に直面させられることになりました。
ヴルバ、ウェツラーら沢山の目撃者のお陰で、ナチスの「最終解決」の恐ろしさと規模は広く知られています。ホロコースト同様ソビエト共産主義の罪悪と野蛮な実相も、ケストラーやソルジェニーツィンらの著述で略述され理解されています。
人間性に反する大罪を目撃証言によって暴こうと試みる人たちがどの時代にも世界のどの地域にもいるということは幸いなことです。
たとえば、リティ・パニュはクメール・ルージュの恐怖を描き、カナン・マキヤはサダム・フセインの野蛮な刑務所について詳述し、ハリー・ウーは中国の強制労働収容所での労改(労働改造)制度の濫用を知らしめようとしました。今日では、中共経由で自由韓国に到る惨めな逃避行を生き延びた何千もの北朝鮮難民の証言が、北朝鮮独裁制の犯罪性を物語っています。抑圧の存在は、最新の衛星写真によって確認・立証されています。衛星写真は、北朝鮮で強制収容所制度が機能していることをはっきり示しています。「管理所」すなわち政治犯の労役のための群居地が20万もの囚人を収容し、囚人らは、ソビエトのグーラグ(強制収容所)制度下の何百万の囚人がそうだったように、日々を辛うじて生き延びるか、生き延びれずに死んでいます。
朝鮮半島北半は、世界最悪の全体主義的独裁者によって統治されています。この男のために、数百万の人命が失われたのです。この男金正日は、父金日成の死後、その共産主義政権を受け継ぎ、個人崇拝強化を続け、その計画経済と「主体思想」というナショナリズムと自立主義を混合した国家イデオロギーとが国に食糧不足を招いているというのに、世界最大級の軍隊を持ち続け、大量破壊兵器を生産しています。北朝鮮政権の犠牲者は何百万にも達します。
絶望した北朝鮮国民何十万もが軍隊と警察の警備をかいくぐって中国に脱出しましたが、中国政府は国際条約に反してこれら脱出民の難民認定を拒み、中国官憲は、国連難民高等弁務官事務所が中国国内の北朝鮮国民と接触することを妨害しています。中国政府は、国境沿いの森で北朝鮮難民狩りをし、難民を北朝鮮に送還しています。彼ら難民の旅路の果ては「管理所」です。こういうことがみなたった今起きているのに、世界は手をこまねいています。
韓国に辿り着ける幸運な難民もいます。しかし彼ら難民が韓国に居るということは、「太陽政策」と表向き呼ばれる韓国の政策にとっては目障りなことです。太陽政策というのは、善意と言い条、譲歩と慰撫を絶え間なく行なうことを基本とするものです。この政策に韓国は何億ドルも費やしていますが、それは無辜の人命を救おうという努力の役には立ちません。太陽政策はつまるところ、平壌の指導者の権力の座を守るだけです。
金正日には、巨大な軍隊や核兵器によって、また長距離ミサイルや兵器・軍事技術を世界中の同好の独裁者へ輸出することによって、世界を恫喝するという能力があります(訳注:皮肉です)。金正日は、外国から畏敬され、世界屈指の強力な指導者と認められたいのです(訳注:これも皮肉です)。金正日は国民を餓死させることを厭わず、自らの統治への忠誠をいささかでも躊躇う素振りを示す者を粛清するために食糧不足を利用しています。金正日は恫喝によって食糧や石油をせしめ、それを自分に忠誠な者(その第一は軍隊)だけに分配するのです。
驚いたことに、国連人権委員会が北朝鮮政権の酷い人権侵害を批判したことは、委員会創設以来二回しかありません。北朝鮮政府が人権委員会の勧告をまだ何も実施していないという事実には、それほど驚きはしませんが、心穏やかではいられません。
今こそ、世界の民主主義国(EUや合衆国や日本や韓国)は同じ立場に立つべき時です。全体主義的独裁者には譲歩しないということをはっきり示さなければなりません。今後の平壌との話し合いでは基本的人権の尊重を必ず議題にすると明言しなければなりません。金正日やその同類に通じるのは、断固とした態度、不屈の精神、強硬な交渉のみです。
蒼き星々メインボード閑居さんの投稿より
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