特定失踪者を取りあげた記事の紹介(5)
扉の向こう 特定失踪者を追う第5部 私たちが、これまでの連載で取り上げた兵庫県関連の特定失踪者たちは、失跡後の消息が皆無だった。まるで扉が閉ざされたかのように。 扉の向こうには何があるのか。全国の特定失踪者約五百人の中には、わずかだが、消息が判明した人もいる。 拉致被害者ではなく、国内にいると分かった人が二十四人。国内での死亡確認が二人。そして、北朝鮮による日本人拉致被害者と政府に認定されたのは一人。 第5部では、扉の向こうで、思いがけない事態に遭遇していた失踪者の家族を全国に訪ねる。次回は北海道へ。(企画報道班) ![]() ![]() 失踪者の顔写真が並ぶ特定失踪者問題調査会のポスター。「広く情報を集め、拉致ではない事案をつぶす必要がある」としている 夏の日の午後、A子さんは自宅から失踪(しっそう)した。十数年前のことだ。親しかった年配の主婦に電話し「おばさん、これから家を出るわ」と、夫との別居を宣言した。少なくとも、その時点では自らの意思で姿を隠したとみられる。 同じ日、A子さんから、インターネットのメールを受け取った女友達もいる。自らの異性関係を相談する内容だった。夫の浮気も相談を受けていた。以後、連絡は絶えたが、女友達は「男性と幸せに暮らせればいい」と思った。出奔の約半年後、女友達の元に刑事が訪れた。「A子さんが事件に巻き込まれた恐れがある」と告げられ、驚いた。 A子さんの捜索願を出したのは郷里の両親だ。警察は事件とみて捜査したが、ようとして行方は知れなかった。 二〇〇二年九月、北朝鮮が日本人の拉致を認めたことから、両親は疑念を抱く。娘は拉致されたのではないか―。 両親は特定失踪者問題調査会に相談し、A子さんを「特定失踪者」に登録してもらった。「北朝鮮による拉致の可能性を否定できない失踪者」との位置づけだ。 ▲▽ A子さんの名前を、私たちは、思いがけない新聞記事の中に見つけた。 全国の地方紙のデータベースを検索し、探し当てた記事の見出しは〈当たり屋 共犯の女逮捕〉だった。男と組んで、わざと車に接触し、運転者に金品を要求したとして逮捕された女は、A子さんと同姓同名。年齢も同じ。もしも同一人物ならば、拉致の可能性は薄まる。何よりも、行方を捜す手がかりになる。 私たちは、生年月日の照合を試みた。女を逮捕した警察署は確認を拒んだ。家族の依頼ならば、警察も応じるのではないかと、A子さんの両親への連絡を考えた。しかし、迷った。それが本人であれ、別人であれ、両親を混乱させるだけではないだろうか。 結局、両親に連絡せずに済んだ。問い合わせていた裁判所から返事があった。「元被告の生年月日は言えないが、A子さんのとは違う」 つまり、別人だった。 ◆ 私たちが、これまでの連載で取り上げた兵庫県関連の特定失踪者たちは、失跡後の消息が皆無だった。まるで扉が閉ざされたかのように。 扉の向こうには何があるのか。全国の特定失踪者約五百人の中には、わずかだが、消息が判明した人もいる。 拉致被害者ではなく、国内にいると分かった人が二十四人。国内での死亡確認が二人。そして、北朝鮮による日本人拉致被害者と政府に認定されたのは一人。 第5部では、扉の向こうで、思いがけない事態に遭遇していた失踪者の家族を全国に訪ねる。次回は北海道へ。 (1)同姓同名 事件記事の犯人は誰?(2008/04/27) (2)図工教諭 プール当番 帰りに何が(2008/04/28) (3)李恩恵 疑念生じた工作員の供述(2008/04/29) (4)時効 殺人判明も刑事罰問えず(2008/04/30) (5)反論 家族の行方捜すのは当然(2008/05/01) (6)日本海 片方のサンダルが路地に(2008/05/02) (7)三つの情報 埋もれた事件たぐり確信(2008/05/03) (8)支援の輪 情報集まり拉致認定へ(2008/05/04) (9)470人 疑惑濃淡で線引きできぬ(2008/05/05) |
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